して、もし幾分でも慰められるものなら慰めたいというようなことを、センティメンタルな調子でいった。
私もいつか引込まれて暗い気持に襲われ出した。しかし私には、どうしても、「手の出しようがない」ということが腑に落ちなかった。とに角幾十人かの生死にかかわる悲惨事ではないか。何故に犬一匹の生命にも無関心ではいられない世間の人達の良心は、平気でそれを見のがせるのであろうか。手を出した結果が、どうあろうと、のばせるだけはのばすべきものではあるまいか。人達の心持は「手の出しようがない」のではない「手を出したってつまらない」というのであろう。
「ではもう、どうにも手の出しようはないというのですね。本当に採って見る何の手段もないのでしょうか?」
「まあそうですね、もうこの場合になってはちょっとどうすることもできませんね。」
しかし、結果はどうとしても、何とかみんなの注意を引くことくらいできそうなものだ、と私は思うのであった。こういうことを、いくら古い問題だからといって、知らぬ顔をしているのはひどい、私はM氏の話に感ずるあきたらなさを考え詰める程、だんだんにある憤激と焦慮が身内に湧き上がってくるのを感
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