社会主義者として敬意を払われた人である。創作家としても、その人道的な熱と情緒によって多くの読者を引きつけた人である。
「へえ、Kさん? ああいう人でも――」
 私は呆れていった。
「Kさんも、前とはよはど違っていますからねえ。しかしKさんばかりじゃない、皆がそうなんです。要するに、もうずいぶん長い間どうすることもできなかったくらいですから、この場合になっても、どう手の出しようもないから、まあ黙って見ているより仕方はあるまいというのがみんなの考えらしいんです。しかし。」
 M氏はいったん言葉を区切ってからいった。手の出しようのないのは事実だ。今まで十年もの間苦しみながら、しがみついて残っていた土地から、今になってどうして離れられよう、という村民の突きつめた気持に同情すれば溺れ死のうという決心にも同意しなければならぬ。といって手を束ねてどうして見ていられよう! けれど、事実の上ではやはり黙って見ているより他はないのだ。しかし、どうしても自分は考えてみるだけでも忍びない。この自分の気持を少しでも慰めたい。せめて、その人達と暫くの間でもその惨めな生活を共にして、その人達の苦しみを自分の苦しみと
前へ 次へ
全69ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 野枝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング