と前には鉱毒問題から続いて、収用法適用で家を毀されるようになった時分までは、ずいぶん世間でも騒ぎましたし、一生懸命になった人もありましたけれど、何しろ、もう三十年も前から続いた事ですからねえ、大抵の人には忘れられているのです。」
 それは私には全く意外な答えであった。まず世間一般の人達はともあれ、一度は、本当に一生懸命にそのために働いた人があるとすれば、今また新しくそうした最後の悲惨事を、どう上の空で黙過することが出来るのだろう? 私はM氏に、何か不満なその考えをむき出しにしていった。しかしM氏はおしなだめるようにいった。
「それゃ、あなたは初めて聞いたんだからそう思うのはあたりまえですけれど、みんなは、『まだ片付かなかったのか』くらいにしか思いはしないのでしょうよ。そういうことはほんとうに不都合なことです。不都合なことですけれど、しかし、それが普通のことなんですから。いまは三河島に引っ込んでいるKさん、ご存じでしょう? あの人でさえ、一時は、あの問題のために一身を捧げるくらいな意気込みでいたんですけれど、今日じゃ、何のたよりにもならないのですからねえ。」
 K氏といえば、一時は有力な
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