ゃあるでしょうけれど、あんまりですね。」
その家屋破壊の強制執行は、更に残留民の激昂を煽った。
「そのやり方もずいぶんひどいんですよ。本当ならばまず毀す前に、みんなを収容するバラックくらいは建てておいて、それからまあ毀すなら毀して、それも他の処に建ててやるくらいの親切はなければならないんです。それをなんでも家を毀して、ここにいられないようにしさえすればいいくらいの考えで、滅茶苦茶にやったんでしょう。それじゃ、とても虫をおさえている訳にはゆきませんよ。第一他にからだのおき場所がないんですからね。」
彼等はあくまで反抗する気で、そこに再び自分達の手でやっと雨露をしのげるくらいの仮小屋を建てて、どうしても立ち退かなかった。もちろん、下げ渡されるはずの買収費をも受けなかった。県当局も、それ以上には手の出しようはなかった。彼等がどうしても、その住居に堪えられなくなって立ち退くのを待つより他はなくなった。しかし、それから、もう十年の月日が経った。工事も済んで谷中全村の広い地域は、高い堤防を囲まれた一大貯水池になった。そして河の増水のたびに、その貯水池の中に水が注ぎ込まれるのであった。それでも彼
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