。」
 こういってM氏はまず鉱毒問題というものから話しはじめた。
 谷中村は栃木県の最南端の、茨城と群馬と接近した土地で、渡良瀬という利根の支流の沿岸の村なのであるが、その渡良瀬の水源が足尾の銅山地方にあるので、銅山の鉱毒が渡良瀬川に流れ込んで、沿岸の土地に非常な被害を及ぼした事がある。それが問題となって、長い間物議の種になっていたが、政府の仲介で鉱業主と被害民の間に妥協が成立して、ひとまずそれは片附いたのだ。しかし水源地の銅山の樹が濫伐されたために、年々洪水の被害が絶えないのと、その洪水のたびに、やはり鉱毒が濁水と一緒に流れ込んでくるので、鉱毒問題の余炎がとかく上りやすいので、政府ではその禍根を絶つことに腐心した。
 水害の原因が水源地の濫伐にあることは勿論であるが、栃木、群馬、茨城、埼玉等の諸県にまたがるこの被害のもう一つの原因は、利根の河水の停滞ということにもあった。本流の河水の停滞は支流の渡良瀬、思等の逆流となって、その辺の低地一帯の氾濫となるのであった。そこでその河水の停滞をのぞくために、河底をさらえるということ、その逆流を緩和さすための貯水池をつくることが最善の方法として選
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