ろう。」
「だけど、人間の同情なんてものは、全く長続きはしないものなのね。もっとも各自に自分の生活の方が忙しいから仕方はないけれど。でも、この土地だって、そのくらいにみんなの同情が集まっている時に、何とか思い切った方法をとっていれば、どうにか途はついたのかもしれないのね。」
「ああ、これでやはり時機というものは大切なもんだよ。ここだってむしろ[#「むしろ」に傍点]旗をたてて騒いだ時に、その勢でもっと思い切って一気にやってしまわなかったのは嘘だよ。こう長引いちゃ、どうしたって、こういう最後になることは解り切っているのだからね。」
けれどとにかく世間で問題にして騒いだ時には、多くの人に涙をわかされた土地なのに、それが何故に何の効果も見せずに、こうした結末に来たのだろう? よそ事としての同情なら続くはずもないかもしれない。しかし、一度はそれを自分の問題として寝食を忘れてもつくした人が、もう思い出して見ないというようなことが、どうしてあり得るのであろう? 私はこの景色を前にして、色々な過ぎ去った話を聞いていると、最初に私が、その事件に対して持った不平や疑問が、新たにまき返ってくるのであった。
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