ったり、破れた舟が置きざりにされてあると見てゆくうちに、人の背丈の半ばにも及ばないような低い、竹とむしろでようやくに小屋の形をしたものが、腐れかかって残っていたりする、長い堤防は人気のない沼の中をうねり曲って、どこまでも続いている。
 山岡は乾いた道にステッキを強くつきあてては高い音をさせながら、十四五年も前にこの土地の問題について世間で騒いだ時分の話や、知人のだれかれがこの村のために働いた話をしながら歩いていく。
「今じゃみんな忘れたような顔をしているけれど、その時分には大変だったさ。それに何の問題でもそうだが、あの問題もやはりいろんな人間のためにずいぶん利用されたもんだ。あのTという爺さんがまた非常に人が好いんだよ。それにもう死ぬ少し前なんかにはすっかり耄碌して意気地がなくなって、僕なんか会ってても厭になっちゃったがね。少し同情するようなことをいう人があるとすっかり信じてしまうんだよ。それでずいぶんいい加減に担がれたんだろう。」
「そうですってね。でも、死ぬ時には村の人にそういってたじゃありませんか。誰も他をあてにしちゃいけないって。しまいにはこりたんでしょうね。」
「そりゃそうだ
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