けられたとおりに、雑巾などを握って台所なども、案外きれいに片づけました。そしてひまがあると、何か読書をしていました。そして時々、いい本があったら読んでくれ、と私に頼むのでした。
 けれども、Yに本を読んでやることは、誰にも辛抱ができませんでした。なぜなら、彼はその聞いてゆくうちに疑問が生じてそれを質すまではいいのですが、途中で何か感じたことがあると、もう書物のことは忘れたように、三十分でも一時間でもひとりで、とんでもない感想をしゃべりまくります。もしそれが年若いNででもあろうものなら、いつの間にか大変な大激論となってしまいます。そうでなくとも、到底、そのおしゃべりの終わりを待って、後を読みつづけてやるという辛抱はできないのです。
 しかし、私の感心は僅かの間に消えてしまいました。Yは健康がよくなると同時に、狭い家の中いっぱいに広がりはじめました。ことに最初から私共に対して持っているひがみを現わしはじめました。その頃すっかり健康を悪くして寝たり起きたりの状態でいた私が台所に出られない時には、彼は露骨に私を嫌がらすような、そして誰をも喜ばさないご馳走を傲然と押しつけるのでした。それから彼は
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