ゾ。」
 といふ手紙が添へてあつた。寿枝はその手紙を持つて田辺へかけつけ、妹の前で泣いた。そして一緒にアパートに行くと、もう楢雄は引つ越したあとだつた。
 寿枝は楢雄の手紙を持つて親戚や知己を訪れ、手紙を見せて泣くのだつた。修一はそんな恥さらしはやめてくれと呶鳴り、そんな暇があつたら、僕の細君でも探してくれ、細君がないと僕は出世が出来んと、赧《あか》い顔もせずに言つた。寿枝は圭介の友人にたのんで、やつと修一の結婚の相手を見つけたが、見合では修一は断られた。妾の子はやはり駄目だと、修一は寿枝に毒づき、その夜外泊したのを切つ掛けに、殆んど家へ帰らず、たまに帰つても口を利かず、寿枝は老い込んだ。
 ある夜、楢雄が豊中からの帰り途、阪急の梅田の改札口を出ようとすると、老眼鏡を掛けてしよんぼり佇《たたず》んでゐる寿枝の姿を見つけた。待ち伏せされてゐるのだと、すぐ判つて、楢雄はいきなり駈けだして近くの喫茶店へ飛び込み、茶碗へ顔を突つ込むやうにして珈琲《コーヒー》を啜《すす》りながら、俺は母を憎んでゐるのではないと自分に言ひきかせた。ちらつと見ただけだつたが、母の頭は随分白くなつてゐた。もう白粉も塗
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