。相変らずだなと苦笑しながら、物も言はず通り過ぎたが、しかしさすがに修一も楢雄には気づき、帰ると、
「今日楢雄を見ましたよ。この暑いのに合服を着て、ボロ靴をはいて、失業者みたいなみすぼらしい恰好《かつかう》でしたよ。」
と、寿枝に語つた。合服といふことがまず寿枝の胸をチクリと刺し、なぜ立ち話にでもあの子の居所をきいてくれなかつたのかと、修一の冷淡さを責めた。
寿枝は私立探偵を雇つて、京阪マーケットに勤めてゐる雪江を尾行して貰ひ、楢雄のアパートをつきとめた。早速出掛けたが、二人は留守で、管理人や隣室の人にきいてみると、月給は雪江の分と合はせて九十五円はいるのだが、そのうち二十円は雪江の親元へ送金するほか、研究費とむやみやたらに買ふ医学書の本代に相当要るので、部屋代と交通費を引くといくらも残らず、予想以上にひどい暮しらしかつた。昼飯を抜く日も多いといふ。寿枝は帰ると為替《かはせ》を組んで、夏服代だと百円送つたが、その金はすぐ送り返されて来た。
「ヒトノ後ヲ尾行シタリ隣室ヘハイツテ散々俺ノ悪口ヲ言ツタリ、俺ノ生活ヲ覗イタリスルコトハ、今後絶対ニヤメテクレ。コノ俺ノ精神ハ金銭デハ堕落シナイ
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