枝は驚いて萩ノ茶屋のアパートへ来た。管理人が気を利かせて、応接間へ通したので同棲してゐるところは知られずに済んだと、楢雄はほつとした。寿枝は洋服代にしろと言つて何枚かの紙幣を渡さうとしたが、楢雄は受け取らうとしなかつた。
「僕にはもういただく金はない筈です。」
「いいえ、お前の金はまだ千円だけ預つてあります。」
「あれは兄さんにあげたお金です。」
「ぢや、これはお母さんがお前にあげます。」
それならいいだらうと、無理に握らせると、やはりふと寿枝を見た眼が渋々嬉しさうだつた。しかし、帰りしなに寿枝が、
「お前もいつまでも頑固なことを言はずに、少しは世間態といふことも考へなさい。お母さんもお前に背広も着せない母親だと言はれたら、どんなに肩身が狭いか判りませんよ。」
と言つたので、楢雄の喜びは途端に消えてしまつた。それでも雪江には、
「おい背広作れるぞ。」
と、喜ばせてやる気になつた。が、雪江は何だが不安さうだつた。
果して、管理人にきいてみると、寿枝は楢雄と雪江の暮しを根掘り聴いて行つたといふことだつた。楢雄は恥しさと、そして二人のことを聴きながら素知らぬ顔で帰つて行つた母親への怒
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