りとで、真赤になつた。翌日、阿倍野橋のアパートヘ移つた。
移転先は内緒にしてあつたが、病院で聴いたのか、移つて五日目の夜寿枝はやつて来た。楢雄は丁度病院の宿直で留守だつたが、わざと留守の時をえらんで来たらしく、その証拠に寿枝は雪江を掴へて、どうか楢雄と別れてくれとくどくど頼んだといふことだつた。寿枝も寿枝だが雪江も雪江で、寿枝の涙を見ると、自分も一緒に泣いて、楢雄さんの幸福のために身を引きますと約束したといふ。
「莫迦《ばか》野郎! 俺に黙つてそんな約束をする奴があるか。」
と楢雄は呶鳴りつけて、「運勢早見書」の六白金星のくだりを見せ、
「俺は一旦かうと思ひ込んだら、どこまでもやり通す男やぞ。別れるものか。お前も覚悟せえ。」
翌日、岸ノ里のアパートへ移つた。移転先は病院へも秘密にし、そして「俺ハ考ヘル所ガアツテ好キ勝手ナ生活ヲスル。干渉スルナ。居所ヲ調ベルト承知センゾ。昭和十二年九月十日午前二時|誌《シル》ス」といふ端書《はがき》を母と兄|宛《あて》に書き送つた。
ところが、それから三日目に田辺の叔母が病院へやつて来た。
「あんたの同棲してゐる女は今宮の錻力《ブリキ》職人の娘で
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