店員のやうにケバケバした身なりもせず、よれよれの人絹を着てゐるのも何か哀れで、高槻の下宿へ遊びに来させてゐたところ、ある夜ありきたりの関係に陥つた。女の体の濡れた感覚の生々しさは、楢雄にもう俺はこの女と一生暮して行くより外はないと決心させた。しかし、香櫨園の女中のことも一寸頭をかすめた。
間もなくビリの成績で学校を出たのをしほに、楢雄は萩ノ茶屋のアパートに移り、母に内緒で雪江と同棲した。そして学校の紹介で桃山の伝染病院に勤めた。母から受取つた金は無論卒業までにきちきち一杯に使つてゐたので、病院でくれる五十円の月給がうれしくて、毎日怠けず通つた。一つには人もいやがる伝染病院とはいかにもデカダンの俺らしいと、気に入つてゐたからである。もつとも病院の方では、楢雄が気に入つてゐるといふわけではなかつた。背広を作る金がなかつたので、ボロボロの学生服で通勤すると、実習生と間違へられ、科長から皮肉な注意を受けた。それでも、服装で病気を癒すわけではありませんからと、平気な顔をしてその服で通してゐると偏屈男だと見たのか、その後注意もなかつたが、しかし寿枝の方へはいつの間にかこつそり注意があつた。
寿
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