、はじめての経験では、他人の袂に無断で手を突っ込むということは、よほど魔がささねば出来なかった。
 悪の魔――次郎にはまだそれが訪れて来ないのだ。
 ところが、やがて電車が来て、並んでいた人々が動き出し、針助も二三歩前へ進みかけた途端、次郎は何かあわてて、いきなり針助の体を押すように、ぺたりと背中へ自分の体をつけた。
 その拍子に次郎の手が針助の袂に触れた。
「今や……」
 次郎は眼の前がぽうっと霞んだ。そして何もかも無我夢中だったが、はっと気がつくと、
「こいつッ!」
 と、針助の声を水のように浴びていた。
 次郎の手は針助に握られていた。
「あっ!」
 と、驚いたのは、次郎よりも三郎の方だった。
 三郎はものも言わずに駈け出そうとした。
 が、針助の手はいきなり伸びて三郎の首筋を掴んでしまった。
「お前もやな……?」
「…………」
「お前も来い!」
 針助は次郎と三郎を両手でひきずるようにして、電車に乗せてしまった。
 ――咄嗟の間の出来事だった。
 電車は案外混んでいなかった。
 針助はあいた席を見つけて、次郎と三郎を自分の両脇に坐らせた。
 次郎と三郎はそれぞれ片手を針助にぐっ
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