…………」
もう次郎は答えなかった。
「一銭も持たんと、帰るンか」
「…………」
「いややなア。こんなことなら、ハナヤで美味いもン食べた方がよかったなア、盗まれるより、その方がなんぼええか判れへん」
「…………」
次郎は棒のように突っ立っていたが、やがてきっと眼を輝かせると、
「三郎《サブ》公、おれ掏摸になるッ!」
と呶鳴るように言った。
「えッ……?」
「正直に靴みがきして、母ちゃんを養うてても、悪い奴にみな金を盗まれてしまうやないか。こんな損なことがあるもんか。正直に働いたら、阿呆な眼を見るだけや。よしッ! もうこうなったらやけくそや。掏摸になる」
次郎はそう言って、きっと前方を睨みつけた時、一人の著流しの男が通り掛った。鴈治郎横丁を出て来たガマンの針助だった。
「よしっ! あの男を掏ったるッ!」
次郎はそれと知らずにガマンの針助の袂へじっと眼をつけた。
ガマンの針助の袂は、中へ入れたものの重みで、だらんと下へ垂れていた。
「あの中に財布がはいっとるのや」
次郎は子供ながらそう睨んで、
「――おい三郎《サブ》公、ついて来い」
と、声をひそめて云いながら、針助のあと
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