るんやろなア」
「わいらに掴まったら、もう一ぺんハナヤをおごらされる思てやろか」
「阿呆ぬかせ」
 と、言って、ふと声をひそめて、
「――ひょっとしたら刑事に追われたンかも判れへんぞ」
「へえ? ほな、掴まって、カンゴク行きやナ」
「掴まるかどないか、まだ判るけえ!」
「うまいこと逃げてくれたら、ええのになア」
「うん」
「しかし、兄ちゃん、掏摸テぼろい商売やけど、怖いなア。カンゴクへ行かんならん。兄ちゃん、それでも掏摸になるか」
「…………」
 次郎はだまって、考えこんでいたが、やがてひょいと足許を見た途端、唇まで真青になった。
「三郎《サブ》公、えらいこっちゃ、銭がない」
「えっ……? ほんまか」
 と、三郎は金入の空罐を覗きこんだ。
 空っぽだ。
「盗まれたッ!」
 次郎はきっと唇を噛んで、起ち上った。そして口惜しそうに前方を睨みつけながら、
「――畜生! どいつが盗みやがったんやろ。ひどいことをしやがる」
「兄ちゃん、交番へ届けたら、あかんやろか」
 三郎は半泣きの声になっていた。
「阿呆! 交番へ届けても戻るもんか。強盗もよう掴まえんのに……」
「どないしたら、ええやろ」

前へ 次へ
全141ページ中83ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング