案を書いたことがあるが、ルンペンの本来の意味は、ボロとか屑とかいう意味である。
つまり、宿なし、失業者、浮浪者といった意味のルンペンとは、人間のボロ、人間の屑というわけであろう。
宿がないということは、屑であるということだ。それほど、宿なしは辛いのだ。
ところが、今、小沢はその辛さを痛切に味わねばならなかった。
実は、この細工谷町で異様な裸の娘を拾ったというのも、小沢が宿なしだったからである。
小沢は両親も身寄りもない孤独な男だったが、それでも応召前は天下茶屋のアパートに住んでたのだから、今夜、大阪駅に著くと、背中の荷物は濡れないように(また、雨の中を背負って行く邪魔でもあったので)駅の一時預けにして、まず天下茶屋のアパートへ行ってみた。
しかし、跡形もなかった。焼跡に佇んで、途方に暮れているうちに、ふと細工谷の友人のことを想いだした。
「そうだ、今夜あそこで泊めて貰おう」
そう思って、やって来たのだが、裸の娘を拾った今は、もう頼って行けそうにもなかった。
深夜、停電している家へ、そんな娘を連れて行って、泊めてくれとは、さすがに云えなかった。自分ひとりなら、無理も云える
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