…」
高利貸に借金するとは、意外だった。
伊部は二十五歳で医学博士になったくらいの秀才で、酒も煙草も飲まぬ、いわゆる品行方正の男だったし、勤務先の阪大病院でもまず相当な給料を貰っていたから、高利貸に金を借りるような生活はまるで想像も出来なかった。
ところが――。
「……敗戦になってから、急に酒を飲みだしたんです」
おまけに煙草は日に八十本、病院もやめてしまい、毎日ぶらぶらして、水すましのように空虚な無為徒食の生活をはじめた――と道子はスカートの端をひっぱりながら言った。
「どうしてまた……?」
そんな風になったのかと、小沢はびっくりして、口も利けなかった。
「それが……」
と、道子はふとうなだれて、
「――あたしにも判らないんです」
「ふーん」
小沢にも無論判らなかった。
「――病院もやめてしまったんですか」
「病院から、来てくれ来てくれって、喧しく言って来るんですけど、どうしても……。戦争が終ってから、何んとなく行く気がしないと云うんです。すっかり人間が変ってしまいましたわ」
あとの方は、声がうるんだ。
「ふーん」
と唸るより仕方がなかった。
「小沢さん、お願いです
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