ようとすると、その刺青の男も娘と一緒にそこで降りた。
作者はここでいささか註釈をはさみたい。
――偶然というものは、ユーモアと共に人生に欠くべからざる要素である。
ユーモアのない人生なんて、凡そ糞面白くないものだが、同時に、人生から偶然というものを取り除いてしまえば、随分味気ないことになるだろう。
しかも、偶然の面白さというものは、こいつが続き出すときりがないという点にある。
余り上品でない比喩を使って言えば、偶然というやつは、まるで金魚の糞のようにゾロゾロと続くものなのである。――
例えば……。
小沢十吉がたまたまはいった梅田の闇市場の食堂で、刺青をした男が唖の浮浪少女と連立って出るところを目撃した――という偶然は、ただそれだけでは大したこともないと言えるが、やがて乗った市電の中に、その二人も乗り合わせていたという偶然と折重ってみると、既に何となくただごとでなくなって来る。
少くとも小沢は、何かしら得体の知れぬ予感を感じて、どきんとした。
果して、刺青の男と唖の娘は、上本町筋を真っ直ぐ北へ行くかと思うと、八丁目の外語学校の前を急に東へ折れ、上ノ宮中学の前を通り細工谷
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