の停電にせよ、まるでわざとのような停電のような気がした。
しかし、べつに何ごとも起らなかった。いきなり誰かが飛び掛って来そうな気配もない。
してみれば、ただ、門燈が何となく消えたというに過ぎなかったのだ。が、やはり不気味な予感は消えなかった。
とにかく、事情を明らかにすることだ。
「どうしたんです、一体……?」
小沢は自分にしがみついている娘に、そうきいた。
「…………」
娘は答えなかった。
「辻強盗に剥がれたんですか……?」
一糸もまとわぬ裸から、想像できるのは、わずかに辻強盗ぐらいなものだった。
小沢は外地から復員して、今夜やっと故郷の大阪へ帰って来たばかしだが、終戦後の都会や近郊の辻強盗の噂は、汽車の中できいて知っていた。
「…………」
娘はだまって首を振った。
「じゃ、どうしたんです……?」
娘はそれには答えず、
「早くどっかへ連れて行って下さい」
それもそうだ。一刻も早くここは立去った方が良さそうだと小沢はうなずいて、歩き出した。
娘は小沢が着せてやったレインコートにくるまっていたが、やはりその下の裸を気にしたような歩き方でついて来た。
「家はどこ……?
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