寝巻のまま閉じこもって、小沢の帰りを待ち焦れていた。
 妙な一夜が明けて、朝小沢は眼を覚すと、雪子に言った。
「君、どうする……?」
「どうするって……?」
「帰れる、その恰好で……」
「帰られへんわ」
 寝巻に細帯だけだった。おまけにその寝巻は宿屋のものなのだ。よしんば借りて帰るにしても、温泉場の夜ならともかく、白昼の大阪の町を、若い娘の寝巻姿は目立ちすぎる。それに、履物がない。
「宿屋の女中さんに事情話して、著物貸して貰うかな」
「いや」
「どうして?」
「だって」
 裸で来た理由を語るのは、あくまで避けたいらしかった。
「じゃ、どこか君の知っている所で著物貸してくれそうな所ないかね。君の使いになって、僕、行ってみるけど……」
「…………」
「ないのか」
「ええ」
「じゃ、僕が何とか工面して来てあげよう」
「お心当りありますのン?」
「まず、買うて来るより仕方がない。闇市……っていうのか、復員したばかりでよくは知らんが、そこへ行ったら売ってるんじゃないかな。金さえあれば、何でもあるってことだそうだから」
「でも、そんなお金……」
「大阪駅へ荷物預けて置いたんだ。毛布や何やかやあるか
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