れ」
ペペ吉の豹吉はきっとお加代を睨みつけて、
「おれの言うてるのは、そんなけちくさい良心と違うわい」
「じゃ、けちくさくない良心テ一体どんな良心なの?」
「けちくさい仕事はせんというのが、掏摸の良心や、浦島太郎みたいに、ぼうっとなっている引揚早々の男を覘うのは、お前けちくさ過ぎるわい。――おい、亀公、お前も掏摸なら掏摸らしゅう、もう一本筋の通った仕事をしろ」
返して来いと、豹吉はすさんだ声で言った。
「返せと言うたかテ、どこを探したらええか、さっぱり判らんがな」
「判らなかったら、一日中駈けずり廻って探して来い――いやか。いやなら、いやと言え!」
「返すよ、返すよ。返しゃいいんだろう」
しかし、亀吉はまだぐずついていた。が、「ハバ、ハバ!」
と、言われると、
「オーケー」
自分の言葉に軽く押し出されるように、亀吉はひょいとハナヤを飛び出した。
次郎と三郎は、びっくりしたような眼を見合せていた……。
大阪の憂鬱
丁度その頃――。
というのはつまり、亀吉が豹吉にいいつけられて小沢十吉を当てなく探しに、千日前のハナヤを出た頃――。
雪子は阿倍野橋の宿屋の一室に
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