を、返しに行け――テ、そンナン無茶やぜ」
「おい、亀公、お前良心ないのンか」
 豹吉は豹吉らしくないことを言った。
「ない」
「ない……? 良心がない……?」
「あったけど、今はないわい」
 亀吉はふと悲しそうに、
「――二人とも死んでしもた」
「阿呆、その両親と違うわい。心の良心や」
「ああ、それか。それやったら、一寸だけある」
「ほな、返しに行け」
「…………」
 亀公は何か言いたそうに、唇を尖らせた。
「復員軍人テお前どんなもんか知ってるやろ。たいてい皆いやいや引っ張り出されて、浦島太郎になって帰って来た連中やぞ。浦島太郎なら玉手箱の土産があるけど、復員は脊中の荷物だけが財産やぞ。その財産すっかり掏ってしもても、お前何とも感じへんのか」
「…………」
 亀吉は眼尻の下った半泣きの顔を、お加代の方へ向けた。
 お加代は煙草を吹かしながら、ぼそんと口をはさんだ。
「……良心か。ペペ吉も良心なんて言い出しちゃ、もうおしまいだねえ。女に惚れると、そんなにしおらしいことを云うようになるもんかなア。掏摸をするのに、いちいち良心に咎めたり、同情していた日にゃ、世話はないわねえ」
「お前は黙っと
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