れ!」
「いや、喋るわ」
「選挙はもう済んだぜ」
 それには答えず、お加代は、
「あんた御馳走したげるのはいいけど、寝てる子起すようにならない……? その子たち、やみつきになったらどうするの……?」
「兵古帯のくせに分別くさいこと言うな」
「あんたは分別くさくなかったわね」
「何やと……?」
「分別があれば、あんな怪しい素姓の女に参ったりしないわね。何さ、そわそわ時計を見たりして……。」
「怪しい……? 何が怪しい素姓だ……?」
「あら、あんたあの女の素姓しらないの?」
 お加代の声はいそいそと弾んだ。

「素姓みたいなもン知るもんか」
 豹吉はペッと唾を吐いて、
「――女に惚れるのに、いちいち戸籍調べしてから惚れるくらいなら、俺ははじめから親の家を飛び出すもんか」
 古綿をちぎって捨てるように言った。
 口が腐っても、惚れているとは言わぬ積りだったが、この際は簡単に言ってのける方が、お加代への天邪鬼な痛快さがあった。
 果して、お加代は顔色を変えた。
 豹吉が雪子に興味を抱いているらしいことは無論知っていたが、しかし、はっきり豹吉の口から聴いてみると、改めて嫉妬があり、
「ただでは済
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