間の「ヒンブルの加代」と異名のあるバラケツであった。
バラケツとは大阪の人なら知っていよう。不良のことだ。
しかし、ヒンブルの加代は掏摸はやらない。不器用で掏摸には向かないのだ。
彼女の専門は、映画館やレヴュー小屋へ出入するおとなしそうな女学生や中学生をつかまえて、ゆする一手だ。
虫も殺さぬ顔をしているが、二の腕に刺青があり、それを見れば、どんな中学生もふるえ上ってしまう。女学生は勿論である。
そこをすかさず、金をせびる。俗に「ヒンブルを掛ける」のだ。
それ故の「ヒンブルの加代」だが、べつに「兵古帯お加代」という名も通っている。
洋装はせず、この腕の刺青をかくすための和服に、紫の兵古帯を年中ぐるぐる巻きにしているからだ。
従って、髪も兵古帯にふさわしくお下げにして、前髪を垂らしているせいか、ふと下町娘のようであり、またエキゾチックなやるせなさもある。
昔はやった「宵闇せまれば悩みは果てなし……」という歌にも似た女だと、うっかり彼女に言い寄って、ひどい目に会う学生が多い――それほどお加代は若い男の心をそそる魅力を持っていた。
それかあらぬか、仲間の男たちは、
「ヒンブ
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