か、惚れようと思ってるわけやないが……」
と、十八歳とは思えぬませた口を豹吉は利いて、
「――ちょっと気になるな」
「何が……?」
「誰に会いに来た(北)やら南やら……?」
「ふん」
と、豹吉のまずい洒落を鼻の先で笑って、
「――たぶんあんたに会いに来たンでしょう。――さア帰ろうッと」
起ち上ると、じゃ明日また……と、雨の中へ風のように出て行った。
豹吉は軽い当身をくらったような気がして思わず畜生とついて行きかけたが、何かすかされた想いに足をすくわれてぽかんと後姿を見送っていた。
後姿が消えても、白い雨足をいつまでも見ていた。
すると、豹吉は雪子に無関心でおれなくなった自分をぴしゃりと横なぐりの雨のように感じて、ふと狼狽した。
それが、昨日のことであった。
そして、今日――。
「何だい、あんな女……」
と、思いながらもやはり豹吉は十時にやって来たのだ。
ところが、雪子は来ていなかった。こんなことは今までになかったことだと、もう一度見廻すと、若い娘の媚を含んだ視線に打っ突かった。
しかし雪子ではなかった。
「なんだ、お加代か」
豹吉はペッと唾を吐いた。
同じ仲
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