は漫才師でも言うぜ」
いい気になるなと、豹吉はうそぶいた。
「あはは……」
男ははじめて笑って、
「――洒落もお洒落もあんまり好きやないが、洒落でも言ってんと、日が暮れん。釣もそうやが……」
「ほな、失業して暇だらけやいうわけか」
「さアなア……」
「商売は何や……?」
「医者ということになっている」
「医者なら人を殺した覚えあるやろな」
「ある」
「どんな気持や……?」
「説明しても判らん。経験がないと判らん」
「ほな、今経験してみるわ」
豹吉はにやりと笑ったかと思うと、いきなり男の背中をどんと突いた。
男はあっという間に川の中へ落ちてしまった。
男が川の中へ落ちてしまったのを見届けると、豹吉は不気味な笑いを笑った。
しかし、さすがに顔色は青ざめていた。
ふとあたりを見廻した。
誰も見ていた者はない。午前六時だ。人影も殆んどなかった。
豹吉は固い姿勢で歩き出した。
「誰も見ていなくてよかったが、しかし、誰か見てくれていた方がやり甲斐があったな」
そう呟きながら、渡辺橋を北へ渡って行ったが、橋の中ほどまで来ると、急にぱっと駈け出した。
うしろも見ずに、追われる
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