だ。すると、
「下手な東京弁を使うな。君は大阪とちがうのか」
 いきなり男の声が来た。
 三十前後の、ヒョロヒョロと痩せて背の高い、放心したような表情の男だったが、眉には神経質らしい翳があり、こういう男はえてして皮肉なのだろうか。
「ほな、何弁を使うたらいいねン……?」
「詭弁でも使うさ」
 男はひとりごとのように、にこりともせず言った。
 その洒落がわからず、器用に煙草の輪を吹き出すことで、虚勢を張っていると、
「――君はいくつや」
 と、きかれた。
「十八や。十八で煙草吸うたらいかんのか」
 先廻りして食って掛ると、男は釣糸を見つめながら、
「おれは十六から吸っている」
 豹吉はやられたと思った。
「朝っぱらから釣に来て、昼のお菜の工面いうわけか」
 仕返しの積りで言うと、
「落ちぶれても、おりゃ魚は食わんよ。生ぐさいものを食うと、反吐が出る」
「ほな、何を食うんや」
「人を食う。いちいち洒落を言わすな」
 男の方が役者が一枚上だった。
「食わん魚釣って売るつもりか」
「おりゃ昔から売るのも買うのも嫌いや」
「……? ……」
「変な顔をするな。喧嘩のことや」
 また洒落だ。
「洒落
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