って、
「お願いです[#「お願いです」は底本では「お顔いです」]。青蛇団の刺青をとってやって下さい」
 と、いきなり言った。
(作者はここで最後の偶然を述べねばならない)
 即ち、雪子はある夜、伊部とゆきずりの一夜を明かした。
 その時、伊部が外科の医者で、刺青を除去する手術を今まで何度もやった経験があるということを知った。
 雪子は豹吉たちのことを想い出した。豹吉が悪の道へぐれて行ったのは、背中の刺青という重荷のためであることを、雪子は知っていた。
 雪子はその夜伊部に、豹吉らの刺青をとってやってくれと頼んだ。が、伊部は、
「面倒くさい」
 と、言って、応じなかった。が、雪子は執拗だった。伊部は仕方なく、
「じゃ、気が向いたら手術をしてやろう」
「でも、いつあなたにお会い出来るか知れしません」
「じゃ、こうしよう。君のよく行く千日前のハナヤという喫茶店へ午前十時に行って三十分間だけ待ってろ。気が向いたら行く」
 雪子はだから、毎日ハナヤへ行って、伊部を待っていたのである。が、伊部はやはり、面倒くさがって行かなかった。
「――毎日待ってました。お願いです。刺青をとってやって下さい」

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