」
小沢は椅子に掛けたまま、わざと娘の顔を見ずに言った。
「そんなン困るわ」
娘は寝台の傍で、ちょっと体をくねらせて、鼻に掛った声で言った。
女の大阪弁というものは、含みが多い。だから、娘のその言葉、そしてその声は、何か安心したようにも、甘えて小沢を責めているようにも、そしてまた、恐縮しているようにも聴えた。
「そんなン困るわ」
といったが、一体どういう風に困るのか、いや、本当に困るのか、小沢にはさっぱりその意味が汲み取れなかった。
つまり、小沢にはその娘の心理がまったく解らぬのであった。
なぜ解らぬのか……。
ありていに言えば、小沢の心の底には、既にその娘への、ある種の(といってもいい位複雑な)関心がひそかに湧いていた――その関心があるために、もう娘の心理が解らなくなってしまったのかも知れない。
その関心の中で、一番強いのは、やはり娘の体への本能的な好奇心だった。雨に濡れたあとの動物的な感覚が、たしかにその本能へ拍車を掛けていた。ことに、裸の娘と深夜の部屋に二人きりでいるという条件は、この際決定的なものであった。
しかし、そんな風な、まるでおあつらえ向きの条件になっ
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