言って、いきなり部屋の外へ出て行った。
そして、わざとゆっくり便所から帰って来ると、娘はちゃんと寝巻に着更えていた。
しかし、その寝巻は寸法が長いので、娘は裾を引きずっていた。それが滑稽でもあり、そしてまた、ふと艶めかしくも見えた。
「長いね」
小沢が言うと、娘は半泣きの顔になり、
「ふん」
と、鼻の先で笑ったが、何思ったか急にペロリと舌を出して、素早くひっこめた。
寝巻に着更えたので、やっと人心地が甦ったのであろうと、小沢もふと心に灯のついた想いがしたが、それだけに一層不幸そうな娘がいじらしくてならなかった。
「ところで、も一度きくけど、一体どうしてあんな恰好で飛び出したの」
小沢は裸のことを、再びきいてみずには居られなかった。すると娘は急に悲しい声になって、
「それだけは、きかんといて……」
大阪弁だった。
「じゃ、今はきくまい」
と、小沢は今はという言葉に含みを残して、
「――とにかく、寝ることにしよう。君は寝台で寝給え」
「ええ」
娘はうなずいて、素直に寝台に上りかけたが、ふと振り向くと、
「あなたは……?」
どこで寝るのかと、きいた。
「僕はここで寝るよ
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