た原因を考えると、小沢はやはりその娘の体に触れることが躊躇された。
「とにかく娘はおれに救いを求めたのだ。おれは送り狼になりたくたい」
 そう思ったので、小沢はもうサバサバした声で言った。
「困るも何もない。君は一人で寝台に寝るんだ」
「でも……」
「僕は椅子の上で寝るのは馴れてるんだから……」
 そう言うと、娘は暫くためらっていたが、
「じゃ、お休み」
 と、言って、寝台の中へもぐり込んだ。
 ちらと眼をやると、娘は掛蒲団の中へ顔を埋めている。眩しいのだろうか。
「灯り消そうか」
 小沢が声を掛けると、娘は半分顔を出して、
「ええ」
 天井を見つめたまま、うなずいた。
 小沢は立って行って、壁についているスイッチを押した。
 廊下の灯りも消えているので、外から射し込んで来る光線もなく、途端に真暗闇になった。
 手さぐりでもとの椅子に戻ると、小沢は濡れた服を寝巻に着更えると、眼を閉じた……。
 外は相変らずの土砂降りだった。
 何か焦躁の音のような、その雨の音が耳についてか、それとも……とにかく小沢はなかなか寝つかれず、いらいらしているとふっと、大きな溜息が寝台の方から聴えて来た。
 
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