がなく、喧嘩するのはくだらないじゃないか。無駄だよ。エネルギーの浪費だよ。よした方が気が利いている。よし給え……」
 と、畳みかけるように言った。
 龍太は微笑しながら、
「おい、豹吉、こんな奴おれ知らんよ。こんな邪魔が飛び入りしたら、もうおれは気が抜けてしもたよ。――どや、今夜はこれで幕ということにしようか」
 と言った。

 隼団の龍太に、もう喧嘩はやめようと言われて、豹吉は両の頬ににやっとえくぼを浮べながら、ペッと唾を吐き捨てると、
「そやなア。この演説屋の長講一席に敬意を表することにしようか。だいいち、おれは人をあっと云わせることは好きやが、売るのも買うのもあんまり好きやない」
 そう言った途端、ふと渡辺橋で釣をしていた男の言葉を想い出した。
 ――「食わん魚釣って売るつもりか」
 ――「……? ……」
 ――「変な顔をするな。喧嘩のことや」
 豹吉はいきなり呟いた。
「……あの男は死によったが、おれは死に損うた」
 龍太は拳銃をポケットに入れると、
「じゃ、引きあげよう」
 と、隼団の連中を連れて、引きあげかけた。
「一寸、待った!」
 と、小沢は呼びとめた。
「まだ何か用か
前へ 次へ
全141ページ中111ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング