店のドテ焼、粕饅頭《かすまんじゅう》から、戎橋筋《えびすばしすじ》そごう横「しる市」のどじょう汁《じる》と皮鯨汁《ころじる》、道頓堀《どうとんぼり》相合橋東詰《あいおいばしひがしづめ》「出雲屋《いずもや》」のまむし[#「まむし」に傍点]、日本橋「たこ梅」のたこ、法善寺境内「正弁丹吾亭《しょうべんたんごてい》」の関東煮《かんとだき》、千日前|常盤座《ときわざ》横「寿司《すし》捨」の鉄火巻と鯛《たい》の皮の酢味噌《すみそ》、その向い「だるまや」のかやく[#「かやく」に傍点]飯《めし》と粕じるなどで、いずれも銭のかからぬいわば下手《げて》もの料理ばかりであった。芸者を連れて行くべき店の構えでもなかったから、はじめは蝶子も択《よ》りによってこんな所へと思ったが、「ど、ど、ど、どや、うまいやろが、こ、こ、こ、こんなうまいもんどこイ行ったかて食べられへんぜ」という講釈を聞きながら食うと、なるほどうまかった。
乱暴に白い足袋《たび》を踏《ふ》みつけられて、キャッと声を立てる、それもかえって食慾《しょくよく》が出るほどで、そんな下手もの料理の食べ歩きがちょっとした愉《たの》しみになった。立て込んだ客
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