夫婦善哉
織田作之助
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)醤油屋《しょうゆや》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一銭|天婦羅《てんぷら》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)まむし[#「まむし」に傍点]
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年中借金取が出はいりした。節季はむろんまるで毎日のことで、醤油屋《しょうゆや》、油屋、八百屋《やおや》、鰯屋《いわしや》、乾物屋《かんぶつや》、炭屋、米屋、家主その他、いずれも厳しい催促《さいそく》だった。路地の入り口で牛蒡《ごぼう》、蓮根《れんこん》、芋《いも》、三ツ葉、蒟蒻《こんにゃく》、紅生姜《べにしょうが》、鯣《するめ》、鰯など一銭|天婦羅《てんぷら》を揚《あ》げて商っている種吉《たねきち》は借金取の姿が見えると、下向いてにわかに饂飩粉《うどんこ》をこねる真似《まね》した。近所の小供たちも、「おっさん、はよ牛蒡《ごんぼ》揚げてんかいナ」と待てしばしがなく、「よっしゃ、今揚げたアるぜ」というものの擂鉢《すりばち》の底をごしごしやるだけで、水洟《みずばな》の落ちたのも気付かなかった。
種吉では話に
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