わなかった。
年が明け、松の内も過ぎた。はっきり勘当だと分ってから、柳吉のしょげ方はすこぶる哀れなものだった。父性愛ということもあった。蝶子に言われても、子供を無理に引き取る気の出なかったのは、いずれ帰参がかなうかも知れぬという下心があるためだったが、それでも、子供と離れていることはさすがに淋《さび》しいと、これは人ごとでなかった。ある日、昔の遊び友達に会い、誘《さそ》われると、もともと好きな道だったから、久しぶりにぐたぐたに酔うた。その夜はさすがに家をあけなかったが、翌日、蝶子が隠していた貯金帳をすっかりおろして、昨夜の返礼だとて友達を呼び出し、難波《なんば》新地へはまりこんで、二日、使い果して魂《たましい》の抜けた男のようにとぼとぼ黒門市場の路地裏長屋へ帰って来た。「帰るとこ、よう忘れんかったこっちゃな」そう言って蝶子は頸筋《くびすじ》を掴んで突き倒し、肩をたたく時の要領で、頭をこつこつたたいた。「おばはん、何すんねん、無茶しな」しかし、抵抗《ていこう》する元気もないかのようだった。二日酔いで頭があばれとると、蒲団にくるまってうんうん唸《うな》っている柳吉の顔をピシャリと撲って、
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