何となく外へ出た。千日前の愛進館で京山小円《きょうやまこえん》の浪花節を聴いたが、一人では面白いとも思えず、出ると、この二三日飯も咽喉へ通らなかったこととて急に空腹を感じ、楽天地横の自由軒で玉子入りのライスカレーを食べた。「自由軒《ここ》のラ、ラ、ライスカレーはご飯にあんじょう[#「あんじょう」に傍点]ま、ま、ま、まむしてあるよって、うまい」とかつて柳吉が言った言葉を想い出しながら、カレーのあとのコーヒーを飲んでいると、いきなり甘い気持が胸に湧《わ》いた。こっそり帰ってみると、柳吉はいびきをかいていた。だし抜けに、荒々《あらあら》しく揺すぶって、柳吉が眠い眼をあけると、「阿呆《あほ》んだら」そして唇《くちびる》をとがらして柳吉の顔へもって行った。
あくる日、二人で改めて自由軒へ行き、帰りに高津のおきんの所へ仲の良い夫婦の顔を出した。ことを知っていたおきんは、柳吉に意見めいた口を利いた。おきんの亭主《ていしゅ》はかつて北浜《きたはま》で羽振りが良くおきんを落籍《ひか》して死んだ女房の後釜に据《す》えた途端に没落《ぼつらく》したが、おきんは現在のヤトナ周旋屋、亭主は恥《はじ》をしのんで
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