田が一層落ちぶれて見え、哀れだった。
 それにしても落ちぶれたものである。可哀そうなのは、苦労をともにしている瞳のことだと、松本は忘れていた女の顔を、坂田のずんぐりした首に想い出した。
 ちょっと見には、つんとしてなにかかげの濃い冷い感じのある顔だったが、結局は疳高い声が間抜けてきこえるただの女だった。坂田のような男に随いて苦労するようなところも、いまにして思えば、あった。
 あれはどないしてる? どないにして暮らして来たのかと、松本はふと口に出かかるほどだったが、大阪から連れて来た女の手前はばかった。坂田も無口だった。だから、わざわざ伴って珈琲を飲みに来たものの、たいした話もなかった。それでも松本は、大阪は変ったぜ、地下鉄出来たん知ってるな。そんなら、赤玉のムーラン・ルージュが廻らんようになったんは知らんやろなどと、黙っているわけにもいかず、喋っていた。そうでっか、わても一ぺん大阪へ帰りたいと思てまんねんと、坂田も話を合せていたが、一向に調子が乗らなかった。なんとなくお互い気まずかった。女たちは賑かに退屈していた。松本は坂田を伴って来たことを後悔した。が、それ以上に、坂田は随いて来た
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