癖でんねん。それが彼女の手エでんねん。そない言うてからに、うまいこと相手の同情ひきよりまんねんぜ。ほら昨夜《ゆうべ》従兄弟がどないやとか、こないやとか言うとりましたやろ、あれもやっぱり手エだんねん。なにが彼女に従兄弟みたいなもんおますかいな。ほんまにあんた、警戒せなあきまへんぜ」
警戒とは大袈裟な言い方だと、私はいささかあきれた。
「ところで、彼女は僕のこと如何《どない》言うとりました? 悪い男や言うとりましたやろ? 焼餅やきや言うてしまへんでしたか。どうせそんなことでっしゃろ。なにが、僕が焼餅やきますかいな。彼女の方が余っ程焼餅やきでっせ。一緒に道歩いてても、僕に女子の顔見たらいかん、こない言いよりまんねん。活動見ても、綺麗な女優が出て来たら、眼エつぶっとれ、とこない言いよりまんねん。どだい無茶ですがな。ほんまにあんな女子にかかったら、一生の損でっせ。そない思いはれしまへんか」
じっと眼を細めて、私の顔を見つめていたが、それはそうと、とまた言葉を続けて、
「石油どないだ(す)? まだ、飲みはれしまへんか。飲みなはれな。よう効くんでっけどな。ちょっとも毒なことおまへんぜ」
その時
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