秋深き
織田作之助
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)齧《かじ》ると
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一応|隣室《となり》の
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医者に診せると、やはり肺がわるいと言った。転地した方がよかろうということだった。温泉へ行くことにした。
汽車の時間を勘ちがいしたらしく、真夜なかに着いた。駅に降り立つと、くろぐろとした山の肌が突然眼の前に迫った。夜更けの音がそのあたりにうずくまっているようだった。妙な時刻に着いたものだと、しょんぼり佇んでいると、カンテラを振りまわしながら眠ったく駅の名をよんでいた駅員が、いきなり私の手から切符をひったくった。
乗って来た汽車をやり過してから、線路を越え、誰もいない改札口を出た。青いシェードを掛けた電球がひとつ、改札口の棚を暗く照らしていた。薄よごれたなにかのポスターの絵がふと眼にはいり、にわかに夜の更けた感じだった。
駅をでると、いきなり暗闇につつまれた。
提灯が物影から飛び出して来た。温泉へ来たのかという意味のことを訊かれたので、そうだと答えると、もういっぺんお辞儀をして、
「お疲れさんで……
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