た。
九月の十日過ぎに私はまた上京した。武田さんを訪問すると、留守だった。行方不明だという。上京の目的の半分は武田さんに会うことだった。
雑誌社へきけば判るだろうと思い、文芸春秋社へ行き、オール読物の編輯をしているSという友人を訪ねると、Sはちょうど電話を掛けているところだった。
「もしもし、こちらは文芸春秋のSですが、武田さん……そう、武麟さんの居所知りませんか。え、なに? あなたも探しておられるんですか。困りましたなア」
終りの方は半泣きの声だった。――私は改造社へ行った。改造の編輯者は大日本印刷へ出張校正に行ってみんな留守だった。
改造社を出ると空車が通りかかったので、それに乗って大日本印刷へ行った。四階でエレヴェーターを降りると、エレヴェーターのすぐ前が改造の校正室だった。
はいって行くと、きかぬ先に、
「武田さん来てますよ」
と、Aさんが言った。
「えッ? どこに……」
「向うの部屋に罐詰中です」
教えられた部屋は硝子張りで、校正室から監視の眼が届くようになっていた。
武田さんは鉛の置物のように、どすんと置かれていた。
ドアを押すと、背中で、
「大丈夫だ。逃
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