四月馬鹿
織田作之助
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)泛《うか》び上らせて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]
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はしがき
武田さんのことを書く。
――というこの書出しは、実は武田さんの真似である。
武田さんは外地より帰って間もなく「弥生さん」という題の小説を書いた。その小説の書出しの一行を読んだ時私はどきんとした。
「弥生さんのことを書く」
という書出しであった。
その小説は、外地へ送られる船の中で知り合った人の奥さん(弥生さん)を、作者の武田さんが東京へ帰ってから訪ねて行くという話で、淡々とした筆致の中に弥生さんというひとの姿を鮮かに泛《うか》び上らせていた。話そのものは味が淡く、一見私小説風のものだが、私はふとこれは架空の話ではないかと思った。
武田さんが死んでしまった今日、もうその真偽をただすすべもないが、しかし、武田さんともあろう人が本当にあった話をそのまま淡い味の私小説にする筈がないと思った。「私」が出て来るけれど、作者自身の体験談ではあるまい。「雪の話」以後の武田
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