掛けているわ」
 と、道子は口惜しそうに言ったが、ところが、その兄が間もなく貰ったお嫁さんは、ちゃんと眼鏡を掛けていた。
「それ見なさい。あんまりひとのことを……」
「しかし、僕のお嫁さんの容貌は、三割方落ちても、なおこのくらい綺麗なンだからね。凄いだろう?」
 兄はしゃあしゃあとして、得意になっていたが、まだ女学校を出たばかしの花嫁は、婚礼の晩つんなに[#「つんなに」はママ]幸福そうに見えなかった。むしろなんだか、悲しそうだと、道子は思った。
 ――眼鏡を掛けた女は、みんな悲しそうに見えるのかしら?
 と、道子は思って、悲観した。
 一月ばかり経って、すっかり兄嫁に馴染んだ頃、道子は、
「お姉様は、なぜ御婚礼の晩あんなに悲しそうにしていらっしたの?」
 と、訊いてみた。
「それはね、――」兄嫁はちょっと口ごもって、「あたしの一番の仲良しをあの晩お呼び出来なかったからよ。それが悲しかったの」
「どうして、お呼び出来なかったの?」
 しかし、兄嫁はふと赧くなっただけで、答えなかった。
 ところが、それから間もなく、兄嫁のところへ結婚式の招待状が来た。
「まあ、口惜しい」兄嫁は叫んだ。「道
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