子さんこの女《ひと》よ、この方よ。あたしが自分の結婚式に呼べなかったひとというのは……」
あっけにとられて眼鏡の奥で眼をパチクリさせていると、彼女は続けて「――学校時代、この女《ひと》と二人、どちらも一生結婚なんかしないで置きましょうねと、約束したのよ。だから、あたしその約束を裏切ったのが辛くて、呼べなかったのよ。顔を合わすのが怖くて、同窓会ほも[#「同窓会ほも」はママ]行けなかった――それが悲しかったのよ。でももういいわ。この女《ひと》だってもう結婚するんですもの」
そして急に眼鏡を外して、そっと涙を拭いたかと思うと、何思ったのかいきなり、ぺろっと舌を出して、幸福そうに笑った。
底本:「定本織田作之助全集 第六巻」文泉堂出版
1976(昭和51)年4月25日発行
1995(平成7)年3月20日第3版発行
初出:「令女界」
1943(昭和18)年6月号
入力:桃沢まり
校正:小林繁雄
2009年8月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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