が撲り込みに来たことがあったが、その時お前は部屋の隅にじっと腕組みして、いくらか蒼ざめながら彼等をにらんでいた――あの眼付き、それと、御霊神社の前でチラシを配っていた時の、その必要もないのに、ひどく隙がなかったあの鋭く光った眼付きを想い出して、おれはこうも変るものか、とむしろあきれ、お前をさげすんだ。
やっぱり、人間は金が出来てしまうと、駄目だと思って、
「――どうしましょうも、こうしましょうも無いさ。放って置け! ――それとも、怖いのか」
たった一言、吐き捨てて、あと口を利かず、素知らぬ顔をしてやった。すると、またしても、心細げにちらと見上げたお前の眼付きの弱さ!
「――こうッと。何ぞ良い考えはないもんかな」
お前はしきりに首をひねっていたが、間もなく、川那子メジシンの広告から全快写真の姿が消え、代って歴史上の英雄豪傑をはじめ、現代の政治家、実業家、文士、著名の俳優、芸者等、凡ゆる階級の代表的人物や、代表的時事問題の誹毀讒謗《ひきざんぼう》的文章があらわれだした。
自身攻撃されるのを防ぐために、有名人を攻撃するという、いわば相手の武器をとって、これを逆用するにも似た、そんなや
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