想いに青く濡れた。六百円の保証金をつくるのさえ、精一杯だったのだ。それを、この上どこを叩いて二百円の金を出せというのか。しかし、出さねば、折角の保証金がフイになるかも知れない――と、むろん、そうはっきりと凄文句でおどしつけたわけではなかったが、彼等はそんな心配をした。
 それに、考えてみれば、無理は無理でも、装飾品のほかに百円の薬がただで貰えるというのだ。けっして割のわるい話ではない――と、結局、彼等は乾いた雑巾《ぞうきん》を絞るようにして、二百円の金を工面せざるを得なかった。
 その結果集まった金が六千円、うち装飾品の実費一軒あたり七十円に無代進呈の薬の実費が十円すなわち三十軒分で二千四百円をひいたざっと四千円が、丹造の懐ろに流れ込んだ。さきの保証金とあわせて二万二千円、但し新聞広告代にざっと三千円掛り、差し引き一万九千円の金がはいったと、丹造は算盤をはじいた……。

 嘘みたいな上首尾だった。こうまで巧く成功するのは、お前……いや、このおれも予想しなかった。たいていのことに驚かぬおれだが、この時ばかりは、自分でも嫌気がさすくらいだった。
 無論、これはおれだけの気持、お前と来ては、
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