たのか、無理算段したのかいずれにしてもあまり余った金ではない証拠に、為替に添えた手紙には、いずれも血の出るような金を手ばなす時の表情がありありと見え、どうぞよろしくと、簡単な文句にも十二分の想いがこもっていた。やっと五百円だけ工面しました。残金百円はあと十日以内に何とかして送金します故、何とぞ支店長に任命のほどを……と、あわれなまでにあわてて送金して来た向きもあった。
そうして集まった金が一万八千円ばかり、これで資金も十分出来たと、丹造は思わずにやりとしたが、すぐ渋い顔になると、
「――まだちょっと足りぬ」
気味のわるい声で呟いた。
「……いっそのこと、保証金を八百円にすればよかった」
と、丹造は頭をひねった。間もなく、彼は三十軒の支店長へ手紙をだして曰く、――支店の成績をあげるためには、それ相当に店舗を飾る必要がある。この意味に於いて、総発売元は各支店へ戸棚二個、欅《けやき》吊看板二枚、紙張横額二枚、金屏風《きんびょうぶ》半双を送付する。よって、その実費として、二百円送金すべし。その代り、百円分の薬を無代進呈する。
……いきなり二百円を請求された支店長たちは、まるで水を浴びた
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