から、朝鮮へ行って、砂金に手を出したりしましたんですが、一杯くわされましてな、到頭食いつめて、またこちらへ舞い戻って来ました」
「――そりゃ大変だったね」
と鷹揚《おうよう》に湯崎でのことは忘れたような顔をして、
「それで、なに[#「なに」に傍点]はどうしてるんだね? 今でもやっぱし……」
お前と一緒にいるのかと、わざとぼんやりきくと、お前は直ぐお千鶴のことだと察し、
「ああ、――あいつですか。朝鮮に残して来ました。これをしてますよ」
三味線をもつ真似をしてみせ、けろりとしていた。
「――なるほどね」
と、おれも平気な顔をしていた筈だが、果してどうか。実は内心|唸《うな》っていたのだ。が、いつまでもお千鶴のことを立ち話にきくのも変だと、すぐ話をかえて、
「――ところで、お前の方は、いまどうしているんだい?」
と、きくと、
「――薬屋をしているんです」
「――へえ?」
驚いた顔へぐっと寄って来て、
「――それもあんた、自家製の特効薬でしてね。わたしが調整してるんですよ」
「――そいつア、また。……ものによっては、一服寄進にあずかってもよいが、いったい何に効くんだい?」
「――
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