飛ぶように売れ、有料広告主もだんだん増えた。
 もっとも、こう言ったからとて、べつだん恩に着せようというのではない。それに、もともとこの船場新聞ではお前もたいして得るところはなかった。それのみか、某事件の摘発、攻撃の筆がたたって、新聞条令違反となり、発売禁止はもとより、百円の罰金をくらった。続いて、某銀行内部の中傷記事が原因して罰金三十円、この後もそんなことが屡※[#二の字点、1−2−22]あって、結局お前は元も子もなくしてしまい無論廃刊した。
 お前は随分苦り切って、そんな羽目になった原因のおれの記事をぶつぶつ恨みおかしいくらいだったから、思わずにやにやしていると、お前は、
「あんたという人は、えげつない人ですなあ」
 と、呆れていた。
「――まあ、そう言うな。潰してしまっても、もともとたいした新聞じゃなかったんだから……」
 と、笑っていると、お前は暫らくおれの顔を見つめていたが、何思ったか、いきなり、
「――冗談言うと、撲《なぐ》りますぞ」
 と、言って出て行き、それきりおれのところへ顔出しもしなかったが、それから大分経って、損害賠償だといって、五十円請求して来た。
 その手紙を
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