いう子分が、おかしさにたまりかねて、地べたに顔を伏せながら、くっくっ笑っているのだ。[#底本では句点が欠落]
「やい、猫真似! 何をしている?」
「猿飛の奴の足跡を探しますんで」
 と、猫真似の闇右衛門が咄嗟にごまかすと、
「莫迦め! こけが銭を落しやすめえし、きょろきょろ地面を嗅ぎまわりやがって、みっともねえ真似をするな! 猿飛という奴は足跡を残すような、へまな男じゃねえ。今頃は東西南北、どこの空を飛んでいるか、解るものか」
 五右衛門はそう言ったが、何思ったか、急にうんとうなずいて、
「しかし、俺はきっと猿飛をつかまえて見せるぞ」
「何か妙策が……?」
「うん。二つはないが、一つはある。子分共もっと傍へ寄れ……」
 五右衛門は子分を集めると、わざとらしく声をひそめて、
「――妙策というのは外でねえ。手めえたちは、今から京の町を去って、一人ずつ諸国の山の中に閉じこもって、山賊となるんだ。そして手下を作って、仕たい放題の悪事を働けば、手めえたちの噂はすぐ日本国中にひろがって、猿飛の耳にもはいろう。猿飛という奴はオッチョコチョイだから、山賊の噂をきけば、直ぐノコノコと山賊退治にやって来る
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